02
「大体なんでそのチョイスな訳?嫌がらせ?」
優希は不満露に愚痴を溢すが戒は一切取り次がない。
無駄な抵抗と悟った優希はおとなしく口を閉じた。
無視されると言うことは怒るべき所なのだが、戒と優希の付き合いは長い。
この現象について慣れ切ってしまっている優希は特に気にする事もなく、眩しい位の晴天を見上げながら戒の後に続く。
次の瞬間、上ばかり向いていた所為の注意散漫から来た自業自得の災厄。
それほどの衝撃はなかったものの、優希は思いっきり障害物と正面衝突してしまったらしい。
「痛て」
実際口でいうほどの痛みはなかったが、ついの条件反射で言葉が勝手にあふれ出る。
「大丈夫か?」
戒が優希にではなく障害物のほうに声をかける。
どうやら相手は人間だったらしい。
まったく気付かなかった優希ははっと衝突した相手に視線を下ろした。
「わー!悪い!」
戒が相手の腕を引き、立たせる間に優希は相手が落としたノート類数冊を拾い上げた。
「ほんと悪かった!前見てなくってさぁ〜。っと・・・?ごじゅう、あらし?」
ノート類に記入された漢字の一文。
多分名前だろうが見慣れない苗字に優希は思わず眉をひそめた。
「いがらし。だよ」
立ち上がった少年は苗字を間違えられたことに少し不快を示しながら、ずり落ちていた丸眼鏡を押し上げ名を訂正する。
そんな二人の胸の辺りまでしかない五十嵐を見下ろしながら、戒が手を打ち合わせて言った。
「五十嵐・・・A組のか」
「そう、だけど?」
警戒心丸出しの返事が野良猫のようだと、優希は小さく笑う。
「おれもA組だ。清水戒、よろしくな」
五十嵐の警戒を意に介さず、戒は極平坦な口調で自己紹介を済ます。その挨拶に、一瞬にして五十嵐は警戒を解いた。
「彰。五十嵐彰」
同じく感情の薄い自己紹介。
同じ人種の二人は何の不快感を残すこともなく自己紹介を終えていた。
「なぁなぁ、俺のは聞かねーの?」
戒の斜め後ろから構ってオーラを放出する優希を二人そろって冷めた視線で射抜く。
「そろそろ式始まるけど?」
「ん、急ぐか」
あまつさえ無視を決め込む二人に優希は大声で泣きついた。
「聞いてくれよぉぉ!!
五十嵐!五十嵐!!俺は久瀬優希な?クラスはっと・・・?」
合格発表時に知らされているはずなのにもう忘れたらしい。会は今日何度目かの溜息を溢して「お前はB組だ」と教えてやった。
そっか、と頷き歩き出す。多少の時間はあれど式はもう直ぐだ。
三人は軽い会話を交わしながら体育館にへと向かった。
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