03

「2人ともおーそーいー!」
体育館入り口の前で仁王立ちし、少々頬を膨らませた少女が戒と優希に向かってびしりと指を指す。
「藤原、こいつのネクタイ締めてやれ」
「え?優希ってばネクタイも出来ないのぉ?」
もぉ!と付け加えて少女は戒の手から差し出されたネクタイを受け取りほんの少し笑う。
「優希は絹華がいないと駄目だねぇ」
嬉々として優希の首に紺地のネクタイをさっと回し、慣れた手付きでネクタイを締める。
身長差のある二人ははたから見れば新婚さんスタイルだ。それに気付いた優希はさっさと離れるように絹華に目配せする。
が、その意図を察した絹華は 今度はにやりと笑った。
「あ〜なたぁ〜今日もお仕事頑張ってね?」
「うるせぇ。近ぇし、旦那じゃねぇよ」
絹華のふざけた口調に優希はがくりと肩を落とし、完全に疲れきった優希を見ながら五十嵐は会を見上げて尋ねた。
「あれ、誰?」
「赤羽中名物、バカ女藤原」
戒の淡々とした口調に絹華の柔らかい怒声が舞い上がる。
「戒〜?絹華はバカ女じゃないでしょー?」
「耳元で叫ぶなっての!」

絹華・戒・優希のテンポのいい会話に五十嵐は一瞬きょとんとして、両手で口元を覆い押し隠すように笑った。
「あ〜!?何笑ってんだよ五十嵐ー!」
「ぅわあ!?」
ぬっと伸びてきた手が五十嵐の頭を鷲づかみにして、ただでさえ猫っ毛で言うことの聞かない髪を乱暴にかき混ぜる。
犯人は優希らしい。
「バッカだなぁ。こーいう時は隠さねーで思いっきり笑えばいいんだぜ?」
一瞬、息が詰まる思いだった。
「声、出さなきゃ疲れちゃうよぉ?」
深い笑みを刻んだ絹華に、戒も静かに頷き同意する。
「何・・・言ってんだか」
すき放題暴れた髪を押さえながら五十嵐は苦笑する。
生来の気質が邪魔をする。
どうにもこうにも素直に言葉を紡ぐことができない。苦手なのだ。
そこに救いの鶴の一声か。
「式、始まるな」
すっと先陣を切り歩き出す戒。それに続く絹華と優希。
「五ー十嵐、行くぞ?」
「五十嵐君って言うんだぁ。じゃ、行こ?」
振り返り、笑みを浮かべる3人。
今までに見たことのない人種。五十嵐はぷっと吹き出し「行くよ」と笑いながら溢し、3人と並んだ。





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