04

長い長い、長すぎるように感じ過ぎ去った若葉高校入学式。
取りあえず思うと所は、校長がハゲでものすごい髭なのと、それに続くように中年男性教師もハゲが多いこと。そして女の教師が40代ほどばかりであることだ。
まぁ戒の様に年上好みではない優希にとっては痛くもなんともない話だが、もう少し潤いというか華が欲しいと感じたのは仕方がないことだと思う。

式が終われば次は教室に流れる。
新しい出会いに優希の胸は高鳴る。はずだった。

「ねー優希。B組の教室ってどこかなぁ〜?優希ぃ?」
「・・・」
「もしもぉ〜し?」
「・・・」
「優希ってばぁー?」
右隣から響く語尾が間延びした口調。
顔を見ずとも分かる。かれこれ長い付き合いだ。
そしてここにきてやっと小さく優希が怒りを発散させる。
「何でまたおまえと同じクラスなんだろーな」
はぁ、と溜息を溢し、優希はすらりと伸びた右足で軽く壁を蹴り付けた。
「あたしたちって小学からずっと同じクラスだよねぇ?これって運命だよぉ」
嬉しさを隠す事無くニコニコ笑う絹華を見ていると、あっという間に毒気が抜かれ、小さなことを気にする自分がバカらしく優希は気持ちを切り替えることにした。
「しゃーねーなぁ・・・
おい絹華、またよろしくな」
「もち、だよぉ」

幼馴染はいつもと同じ明るい笑顔で諾を示した。

目的地は校舎の奥の端から二番目。B組だから妥当ではあるが少し日当たりが悪い。
そんな事を考えつつ、教室の戸口に立ち扉を開けようとしたときだった。

「遅いぞーーーー」

先に中から扉が開かれ、熊の様な大男が大音量で二人を迎え入れる。
しかし、遅刻しただろうかと二人が顔を見合わせた瞬間にチャイムが鳴った。
「・・・遅いぞって、チャイム今鳴ったんすけど」
大男を見上げながら優希が反論するも、大男は笑顔で二人を招きいれ、席に座るよう促した。

「チャイムも鳴ったし、全員揃った事だし、さっそく自己紹介だな!俺の名前は琿俵吉蔵だ。皆気軽にゴンゾーって呼んでくれればいいからな!よろしく」
黒板にでかでかと自分の名前を書き込み、最後に歯を見せるほどの大笑い。
お世辞を使っても教師とは思えない琿俵の風貌と態度に、緊張していた教室内の生徒はどっと笑い声を上げた。
「よし、じゃあ名簿順に自己紹介だな」
琿俵が名簿一番の生徒の名前を呼ぶ。
B組の生徒、赤井で始まり山崎で終わる38人分の自己紹介が終わると再び琿俵が口を開いた。
「そおだな〜、他にすることもないし、チャイムが鳴るまで好きな奴と喋っていいぞ〜」
琿俵の言葉に周囲の生徒が立ち上がり移動する。
優希もそれに続き、クラスの元同中の奴に声をかけようかと辺りを見回した時、突然自分の前の席に新しい住人が腰を下ろした。
「よっ!遅刻マン?」
向き直るなり満面の笑顔でそう告げる相手に優希は苦笑を禁じえない。
「ギリ遅刻じゃなかったろ。朝比奈、だっけ?」
指差し確認する優希に朝比奈はうんうんと頷いた。
「つーか遅刻してないから遅刻マンじゃないだろ。優希でいいって」
ありもしない汚名をいつまでもいただいている訳にもいかず、優希はさっさと返上してしまう。
「わーかった。で、一緒に遅刻してきた奴も赤羽中?」
女子が固まり騒いでいる方に視線をやる。
中心にいるのはどうやら絹華らしい。
「ああ。腐れ縁、って奴だな」
淡々とした調子の優希に朝比奈は疑わしいと言わんばかりの声音で尋ねる。
「本当にそれだけか〜?あんな可愛いこと同中で、何でちょっと嫌そうなんだよ」
朝比奈の意見に優希は可愛い〜?と声を上げた。
が、確かに絹華は可愛いと言える。
染められた髪。確かシトラスブラウンとかいう色らしい。
過度ではないが印象のあるアクセサリーに、厚すぎないうまい化粧。
可愛い、と言うことは認めよう。
だがしかし、幼少期からの付き合いとなれば恋愛感情は生まれない。
「嫌じゃねえけど、腐れ縁は腐れ縁なんだよ」
そう言いきり優希は絹華から視線を外す。
「ふ〜ん」
納得したわけではなさそうだが、朝比奈もまた視線を戻した。





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